相続法改正のポイント

近年、相続に関連する法律が大幅に改正され、2019年1月から段階的に施行されています。
相続法が改正されるとこれまでとは異なる取扱いになるので、影響を受ける方も多数おられます。
今後相続を控えているなら、改正された相続法を理解しておきましょう。

今回は名古屋で遺産相続案件を多数取り扱っている弁護士が相続法改正の重要ポイントをわかりやすく解説します。

1.配偶者居住権、配偶者短期居住権の新設

今回の相続法改正で「配偶者居住権」が新設されました。これは被相続人と同居していた配偶者が相続開始後も引き続いて家に居住するために認められた権利です。

配偶者居住権と配偶者短期居住権があるので、それぞれみていきましょう。

1-1.配偶者居住権

配偶者居住権は、被相続人の持ち家に居住していた配偶者が相続開始後も家に住み続けられる権利です。遺産分割協議の際に配偶者居住権を取得すれば、家の所有権を取得しなくても家に住み続けることが可能です。

配偶者居住権には「期間」をもうけることができます。「配偶者が死亡するまで」とすることもできますし、5年や10年などの期間を設定してもかまいません。

配偶者が配偶者居住権を取得する場合、子どもなどの別の相続人が家の「所有権」を取得します。このように「所有権」と「配偶者居住権」を分離することにより、配偶者が少ない法定相続分で家に住み続けることが可能です。残った法定相続分で預貯金などを相続できるので、配偶者の老後の生活が安定しやすくなります。

1-2.配偶者短期居住権

改正相続法により配偶者短期居住権制度も新設されました。これは相続開始後に配偶者が一定期間家に住み続けられる権利です。配偶者居住権とは異なり、遺産分割協議で取得するものではなく配偶者に当然に認められます。

配偶者短期居住権が認められる期間は、以下の遅い方の時期です。

  • 相続開始後6か月間
  • 遺産分割協議が成立した時期

遺産分割協議が早く終わっても相続開始後6か月間は無償で家に住めますし、遺産分割協議が長引いた場合には協議が終結するまで家に住み続けることができます。
遺言で長男に自宅が遺贈された場合などにも配偶者がすぐに退去しなくて良いので、保護されます。

配偶者居住権や配偶者居住権の規定が施行されるのは2020年4月1日からです。

2.自筆証書遺言の遺産目録を自筆しなくて良くなった

改正相続法により、自筆証書遺言の方式が緩和されました。
これまでは遺産目録も含めてすべて自筆しなければならなかったのですが、改正法施行後は「遺産目録」については自筆しなくてよくなります。パソコンで作成したり他人に代筆してもらったりできますし、預貯金通帳の写しや不動産全部事項証明書を添付する方法も可能となります。

ただし自筆以外の方法による場合(預貯金通帳の写しや不動産全部事項証明書を添付する場合など)には、必ず一枚一枚に「遺言者の署名押印」が必要です。
また遺産目録以外の部分については従来通り全部自筆しなければなりません。

自筆証書遺言の要式が緩和されたのは2019年1月13日なので、すでに有効となっています。

3.自筆証書遺言の保管制度

これまで自筆証書遺言は、遺言者本人が保管する必要がありました。しかしそれでは紛失などの危険性も高くなるので、相続法改正によって「法務局が預かり保管する制度」が新設されました。
法務局が預かると紛失や偽造、変造のおそれがなくなります。また相続開始後に相続人たちが「遺言書の検認」を受ける必要もなく、手間が省けます。
自筆証書遺言の保管制度が施行される時期は、2020年7月10日を予定しています。

4.預貯金の仮払い制度

従来、預貯金が相続財産に含まれていたとき、相続人たちは「遺産分割協議を終えないと預貯金の払い戻しを受けられない」のが通常でした。
金融機関は遺産分割協議書の提示がないと預貯金の払い戻しに応じなかったためです。
しかしそれでは相続開始直後に必要な葬儀費用の支払いもできなかったり被相続人に生活費を頼っていた相続人が生活に困ったりする問題が発生しました。
そこで相続法改正により、遺産分割協議の成立前でも一定金額までは預貯金の払い戻しを受けられる「仮払い制度」が新設されました。具体的には法定相続分の3分の1までの金額を出金できるようになります。
改正法が施行されたのは2019年7月1日なので、この規定はすでに有効となっています。

5.特別受益となる生前贈与の期間の変更

従来の相続法では、相続人が被相続人から生前贈与を受けると基本的にすべて「特別受益」と評価されていました。特別受益があると、受益を受けた相続人の相続分を減らすことが可能です。これを「特別受益の持ち戻し計算」といいます。
そのせいで40年や50年以上昔の学費の支援や車の贈与などの有無や金額が争われて、遺産分割協議が紛糾するケースが多数発生していました。

しかしあまりに古い生前贈与を持ち出して争っても証拠がないケースがほとんどで、無益です。そこで改正法では特別受益の対象となる生前贈与の期間を「相続開始前10年間」に限定しました。

この規定が施行されたのは2019年7月1日です。

6.配偶者への特別受益の持戻し免除を推定

被相続人が相続人に特別受益に相当する生前贈与を行った場合、被相続人自身の意思で「特別受益の持ち戻し計算を免除」できます。従来は、遺言書などで明示的に特別受益の持ち戻し免除をしないと持ち戻し計算が免除されませんでした。
ところがそれでは配偶者が保護されない可能性があるので、改正法では一定の場合、被相続人から配偶者への特別受益の持ち戻し免除の意思を推定することにしました。
特別受益の持ち戻し計算の意思が推定されるのは、以下の要件を満たすケースです。

  • 婚姻期間が20年以上
  • 居住用の不動産を贈与、遺贈

上記の場合、配偶者への特別受益の持ち戻し計算は基本的に免除されるため、配偶者は安心して家に住み続けることができて、遺産も法定相続分まできっちり受け取れます。
この規定が施行されたのは2019年7月1日です。

7.遺留分減殺請求から遺留分侵害額請求への変更

兄弟姉妹以外の法定相続人には「遺留分」が認められます。遺言や贈与によって遺留分を侵害されたら、遺留分の取り戻し請求が可能です。

その遺留分の請求方法が法改正によって変更されました。
従来は「遺留分減殺請求」といって、遺留分権利者は「遺産そのもの」を取り戻す必要がありました。たとえば遺言によって不動産が遺贈されたとき、遺留分減殺請求をすると不動産は遺留分権利者と受贈者の「共有」となりました。共有状態を解消するには、別途「共有物分割請求」を行わねばならないので、紛争解決のために二度手間となっていたのです。

このような事態が起こらないようにするため、改正法では「遺留分侵害額請求」に改められました。遺留分侵害額請求とは「遺留分侵害された評価額をお金で請求する権利」です。遺留分を侵害されたら、遺産そのものではなくお金で取り戻すことが可能となります。
たとえば不動産が遺贈されたときに遺留分侵害額請求をすると、遺留分侵害額に相当するお金を払ってもらえるだけで不動産は共有になりません。いちいち共有物分割請求をしなくても解決できます。

遺留分に関する変更点が施行されたのは2019年7月1日です。

8.特別寄与料の新設

従来の制度では、被相続人を献身的に介護した人や被相続人の事業を手伝った人がいても、遺産相続の際に考慮されないケースが多数でした。
従来にも「寄与分(被相続人の財産形成や維持に貢献した人が多めに遺産をもらえること)」という制度がありましたが、寄与分が認められるのは「法定相続人のみ」だったからです。たとえば長男の嫁や孫などは法定相続人ではないので、被相続人の生前に献身的に介護しても、遺産を受け取れる可能性はなかったのです。

しかしこのような結果は不合理なので、改正法により一定範囲の親族に「特別寄与料」が認められました。特別寄与料とは、被相続人を介護した親族や事業を献身的に手伝った親族が相続人に請求できるお金です。6親等以内の血族と3親等以内の姻族には特別寄与料が認められるので、長男の嫁や孫などが生前に献身的に介護したケースなどでは、相続人に「特別寄与料」の支払いを請求できます。

特別寄与料の規定が施行されたのは2019年7月1日です。

9.不動産の対抗要件について

従来、不動産を相続した場合、相続人は相続登記をしなくても第三者へ権利を主張できました。しかし相続登記をしなくても不利益がないせいで名義変更されずに放置される不動産が増え、固定資産税なども支払われない状況が発生して社会問題となりました。
そこで改正法では「相続した不動産であっても相続登記をしないと第三者へ権利を主張できない」と変更されました。
今後は不動産を相続したとき、きちんと登記しないと無権利者に勝手に売却されても権利を主張できず、不動産を奪われてしまうリスクが発生します。

不動産の対抗要件についての改正内容が施行されたのは、2019年7月1日です。

10.遺言執行者の権限を拡充

改正相続法では、遺言執行者の権限についても変更が加えられています。
遺言執行者とは、遺言内容を実現する役割を負う人です。たとえば預貯金を払い戻して相続人に渡したり寄付を行ったりします。

従来の民法では、遺言執行者は「相続人の代理人」とされていました。しかし遺言執行者の行う行為は必ずしも相続人の利益にならないので、一部の相続人から「なぜ相続人の代理人なのに相続人に不利益なことをするのか」と責められる事態が発生していました。
また従来は、「不動産を法定相続人に相続させる」という遺言があったとき、遺言執行者が単独で不動産の名義変更を行うことができず、必ず受贈者(相続人)の協力が必要となっていました。

このような状況では遺言執行者が充分にその役割を果たすことができないので、改正相続法では遺言執行者の権限内容を明確化し、拡充しました。

まず遺言執行者は相続人の代理人ではなく「独立した立場」で遺言執行業務を行えるようになりました。また法定相続人に「不動産を相続させる」という遺言がある場合にも、名義変更手続きは遺言執行者が単独でできるよう変更されました。
さらに相続人による遺言執行者の遺言執行への妨害行為は基本的に無効となることも明らかにされました。
今後は遺言執行者を定める意義やメリットが、従来よりも大きくなる見込みです。
遺言執行者に関する変更点が施行されたのは2019年7月1日です。

以上のように、相続法は大きく改正されており、「遺言書の法務局における保管制度」と「配偶者居住権(配偶者短期居住権)」以外の制度はすでに施行されています。
これら2つについても近日中に施行される予定です。
今後遺言や相続を見据えている場合、改正された相続法の知識を持って臨む必要があるといえるでしょう。名古屋で相続に関する対応に迷われた場合、お気軽に名古屋ヒラソル法律事務所までご相談下さい。

ページの先頭へ

親族間の相続問題こそ、弁護士にご相談ください。
私たちは相続に注力する法律事務所です。

052-756-3955

受付時間 月曜~土曜 9:00~18:00

60分無料相談申込お問い合わせ